内科・外科・小児科 安曇野市 穂高ハートクリニックのスタッフブログ
伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は第5病(Fifth disease)とも呼ばれ、頬に出現する蝶翼状 の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる流行性発疹性疾患である。両頬がリンゴのよう に赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもある。本症の病因は長く不明であっ たが、1983年にヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)であることが提唱さ れ、その後の研究によって確実なものとなった。病因が明らかになったことに伴って、本症の周 辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになった。
10~20日の潜伏期間の後、頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状-リンゴの頬)が現れ、 続いて手・足に網目状・レ-ス状・環状などと表現される発疹がみられる。
胸腹背部 にもこの発疹が出現することがある。
これらの発疹は1 週間前後で消失するが、なかには長引いたり、一度消 えた発疹が短期間のうちに再び出現することがある。
成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1~2日歩行困難になることがあるが、ほとんどは合併症をお こすことなく自然に回復する。
なお、頬に発疹が出現す る7~10日くらい前に、微熱や感冒様症状などの前駆症 状が見られることが多いが、この時期にウイルス血症を おこしており、ウイルスの排泄量ももっとも多くなる。
発疹 が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルス の排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失している。
通常は飛沫または接触感染であるが、ウイルス血症の時期に採 取された輸血用血液による感染もある。
B19感染症で注意すべきものの一つとして、妊婦感染による胎児の異常(胎児水腫)および流 産がある。妊娠前半期の感染の方がより危険であり、胎児死亡は感染から4~6週後に生ずる ことが報告されているが、妊娠後半期でも胎児感染は生ずるとの報告もあり、安全な時期につ いて特定することはできない。しかし一方では、妊婦のB19感染が即胎児の異常に結びつくも のではなく、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、B19感染が確認された新生児でも妊娠分 娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は 知られていない。したがって、妊婦の風疹感染ほどの危険性は少ないが、超音波断層検査な どで胎児の状態をよく把握することが必要である。
治療・予防
特異的な治療法はなく、対症療法のみである。免疫不全者における持続感染、溶血性貧血 患者などではγ-グロブリン製剤の投与が有効なことがある。
前述したとおり、紅斑の時期にはほとんど感染力がないので、二次感染予防策の必要はな い。また、ウイルス排泄期には特徴的な症状を示さないので、実際的な二次感染予防策はな い。現在のところワクチンはない。妊婦などは、流行時期に感冒様症状の者に近づくことを避 け、万一感染した場合には、胎児の状態を注意深く観察する。
学校保健法における取り扱い
伝染性紅斑は学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされておらず、一律に 「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くな り授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさあるいは合併症の発生などから保護者の 間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3種学校伝染病としての扱いをする ことがあり得る病気」と解釈される。通常の学校などでの対応のめやすとしては、発疹が現れ たときには感染力はほとんどなくなっているので、発疹のみで全身状態の良いものについては登 校が可能であると考えられる。ただし急性期には、症状の変化に注意をしておく必要がある。
(国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希 岡部信彦)
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