溶連菌感染症について
A群溶血性レンサ球菌は、上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こす。日常よくみられる疾患として、急性咽頭炎の他、膿痂疹、蜂巣織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱がある。これら以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などを起こす。また、菌の直接の作用でなく、免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことが知られている。
通常、患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭、学校などの集団での感染も多い。感染性は急性期にもっとも強く、その後徐々に減弱する。急性期の感染率については兄弟での間が最も高率で、25%と報告されている。
臨床症状
潜伏期は2~5日であるが、潜伏期での感染性については不明である。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌(写真1)がみられることがある。
猩紅熱の場合、発熱開始後12 ~24 時間すると点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現する(写真2)。針頭大の皮疹により、皮膚に紙ヤスリ様の手触りを与える(sandpaper rash )ことがある。特に腋窩、ソケイ部など皮膚のしわの部分に多く、これに沿って線が入っているようにみえる(Pastia's sign )こともある。顔面では通常このような皮疹は見られず、額と頬が紅潮し、口の周りのみ蒼白にみえる(口囲蒼白)ことが特徴的である(写真2)。また、舌の変化として、発症早期には白苔に覆われた舌(white strawberry tongue )がみられ、その後白苔が剥離して苺舌(red strawberry tongue )となる。1週目の終わり頃から顔面より皮膚の膜様落屑が始まり、3週目までに全身に広がる。
合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもある。
治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬であるが、アレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、また第1世代のセフェムも使用可能である。いずれの薬剤もリウマチ熱、急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に投与することが必要である。除菌が思わしくない例では、クリンダマイシン、アモキシシリン/クラブラン酸、あるいは第2世代以降のセフェム剤も使用される。
予防としては、患者との濃厚接触をさけることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も励行する。接触者に対する対応としては、集団発生などの特殊な状況では接触者の咽頭培養を行い、陽性であれば治療を行う。
学校保健法での取り扱い
本疾患は学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされておらず、「学校で流行がおこった場合にその流行を防ぐため、必要があれば、学校長が学校医の意見を聞き、第3種学校伝染病としての措置を講じることができる疾患」のうち、「条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病」のひとつとして例示されている。しかしながら、本疾患は適切な抗生剤治療が行われれば、ほとんどの場合24時間以内に他人への伝染を防げる程度に病原菌を抑制できることもあり、登校登園については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。