細菌性髄膜炎 8〜9割防げる
2010年4月23日 【中日新聞】【朝刊】
ヒブなどのワクチン接種を受ける乳児=東京都内で 二月から肺炎球菌の小児用ワクチン接種が受けられるようになった。Hib(インフルエンザ菌b型、通称ヒブ)ワクチン、子宮頸(けい)がん予防ワクチンなど新型のワクチンが次々と承認されている。疾患予防効果や接種時期などをあらためてまとめた。(杉戸祐子)
「予防できたはずなのに、絶対に接種しなくてはという意識はなかった」
山口県周南市の主婦斎藤裕子さん(36)は昨年十二月、次男の伊吹ちゃんをヒブによる細菌性髄膜炎で亡くした。一歳九カ月だった。突然発熱し、翌日から入院治療を受けたが、その夜に父親(36)に抱かれて「ギャー」と泣いたのを最後に意識を失い、そのまま戻らなかった。
細菌性髄膜炎は、細菌が脳を覆う髄膜に侵入し炎症を起こす感染症。脳性まひなど重い後遺症が残ったり、死亡することもある。伊吹ちゃんはヒブワクチンの接種はしていなかった。
「何の既往症もない元気な子どもが突然かかり、急激に病状が悪化する。初期診断も難しい。これほど怖い病気だとは知らなかった」と斎藤さん。生後十カ月の三男にはヒブや肺炎球菌のワクチン接種をさせた。「命は取り返しがつかない」
子どもが任意接種でうけられるワクチン 最近、相次いで子ども向けの感染症予防ワクチンが承認され、接種が始まった。ヒブワクチン(二〇〇八年十二月開始)、肺炎などを防ぐ小児用の肺炎球菌ワクチン(今年二月開始)、子宮頸がんを予防するワクチン(昨年十二月開始)の三種類だ。
予防接種には、予防接種法に基づいて自治体などが費用を負担する「定期接種」と、希望者が自費で受ける「任意接種」がある。前出の三種類のワクチンは任意接種だ。ワクチンにはそれぞれ接種に適した年齢や、予防効果を得るための接種回数がある=表。
予防効果はどうか。東京都渋谷区の日赤医療センター小児科顧問で「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会代表の薗部友良医師によると、細菌性髄膜炎は乳児から九歳ごろまでの子どもに、年間約千例の発生がある。
原因はヒブが55%、肺炎球菌が20%。ヒブが原因の場合の3〜5%、肺炎球菌が原因の場合の7〜10%が死に至る。薗部医師は「細菌性髄膜炎の八〜九割は、ヒブと肺炎球菌のワクチン接種で防げる」と訴える。
子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で、性交渉の経験のある女性なら誰でも発症の可能性がある。若い女性患者が増えているが、「ワクチン接種で発症を約七割は予防できる」と薗部医師は強調する。
任意接種で高い費用が問題
任意接種の問題は費用。医療機関で違うが、いずれも一回あたり、ヒブワクチンは七千〜八千円、肺炎球菌ワクチンは一万円、子宮頸がん予防ワクチンは一万五千円かかる。水ぼうそうや流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、肝炎などのワクチンも四千〜九千円だ。接種回数は年齢で変わるが、ゼロ歳児のヒブと肺炎球菌ワクチン接種の場合、各四回必要。子宮頸がん予防ワクチンも十一〜十四歳に三回接種するのが望ましい。
自治体によっては公費助成もあるが一部にとどまっている。「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」の田中美紀代表は「家庭の経済事情で子どもの命に格差が生じている。速やかに定期接種化してほしい」と望むが、国の動きは鈍い。
前出の斎藤さんは「任意接種は定期に比べ情報が少なく、必要度が低いと考えがち」と指摘する。子ども手当の給付も始まる。接種の重要性を保護者が理解することがまず大切だ。