2008/11/29 22:47

 11月も終わりになりますね。
 最近は、長引く咳、慢性咳嗽で受診される方が増えています。

 慢性咳嗽の原因疾患の中で、副鼻腔気管支症候群、アトピー咳嗽、咳喘息が三大疾患です。
日本咳嗽研究会:咳について

咳嗽に関するガイドラインと呼吸器感染症
 アボット感染症アワー
:長崎大学大学院感染分子病態学教授 河野 茂
 「咳嗽に関するガイドライン」では、発症後3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽、8週間以上を慢性咳嗽とし、ともに胸部X線や聴診所見で異常を認めないものと定義しています。既に述べましたように、欧米では、慢性咳嗽の原因としては、胃食道逆流症、後鼻漏、喘息が三大原因であるとされています。一方、我が国の原因疾患は、これらとは異なり、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群が三大原因となっています。
 「咳嗽に関するガイドライン」の中では、特に頻度の高い遷延性・慢性咳嗽の原因疾患に関しては、
 呼吸器の専門医の先生方が勤務しておられる大学病院、総合病院における臨床研究などの目的に使用され、気道過敏性試験や咳受容体感受性試験といった特殊な検査を必要とする精密な診断基準と、
 一般開業医の先生方用の特殊な検査を必要としない簡易診断基準を設けました。
 
 遷延性・慢性の咳嗽を主訴とする患者さんが外来を受診された場合、胸部X 線撮影、聴診で異常が認められなければ、まず、喀痰の有無によって考えられる原因疾患が変わってきます。
 我が国では、喀痰を伴う湿性咳嗽の場合、副鼻腔気管支症候群の頻度が高いため、治療的診断として14 及び15 員環マクロライド系抗菌薬を投与し、咳嗽の消失や軽減が得られれば診断することができます。

 難しいのは、喀痰を伴わない乾性咳嗽の場合で、我が国ではアトピー咳嗽と咳喘息が二大原因疾患であると考えられています。
 この2疾患は、非感染性のアレルギー性疾患で、非常に似通った臨床像を呈しますが、病態は異なっており、治療方針や予後も違ってきます。

 まず、咳喘息は喘息の前段階であり、喘鳴を有さない点が通常の喘息と異なりますが、気管支の収縮によって咳を生じます。通常の喘息の治療に用いられる気管支拡張薬は鎮咳作用はなく、気管支拡張薬によって咳嗽が軽減する疾患は咳喘息だけです。そこで、乾性の遷延性・慢性咳嗽の場合は、まず気管支拡張薬を投与し、咳嗽が軽減すれば咳喘息と診断し、引き続き吸入ステロイドなどを使った喘息の治療を開始します。

 気管支拡張薬の効果が認められなければ、次のアトピー咳嗽を疑います。アトピー咳嗽の基本病態は、気道の咳受容体の感受性の亢進であると考えられており、気管支拡張薬は効果を示しません。そのかわりに、アトピー咳嗽の診断的治療にはヒスタミンH1 受容体拮抗薬が用いられ、咳嗽が軽減すれば、アトピー咳嗽と診断することができます。

 咳喘息、アトピー咳嗽ともに重症例に対しては、経口ステロイドが用いられることがあります。臨床的に咳喘息とアトピー咳嗽を区別する意義は予後の違いによります。すなわち、咳喘息は治療を中止すると約30%が典型的喘息へと移行するのに対し、アトピー咳嗽では、治療を中止しても再発は少ないとされています。

●咳嗽診療の治療指針の確立に向けて●
 「咳嗽に関するガイドライン」では、ここまで述べてきた急性咳嗽、遷延性・慢性咳嗽以外にも、小児、高齢者、合併症を有する患者の咳嗽についての対処法も示しています。

 小児の場合は、年齢によって原因疾患が異なっており、年齢の要素を加味した診断、治療法が必要となります。高齢者や寝たきりの患者さんの場合には、咳嗽が出ることによる不
利益のみでなく、気道から異物を排除する防御反応としての咳嗽が出ないことで発症する御嚥性肺炎などの問題があり、その場合には、咳嗽を誘発することが治療法となります。

 これまで我が国の咳嗽診療においては、まとまった参考書や確立された治療指針は存在せず、我々医師は、半ば手さぐり状態で診断を行わざるを得ませんでした。

 このガイドラインによって、咳嗽治療の一つのスタンダードが示されるとともに、いまだ、エビデンスと呼べる大規模試験の少ない咳嗽診療の分野に我が国初のエビデンスが集積されるきっかけとなることを願います。