雑誌「GQ」で、日本で一番のマーケッターに選ばれた、
神田昌典さんの第二弾ドキュメンタリー小説である。
2005年に出版されたのであるが、いまになって読むことができた。
この本自体は、ヒット作ではなかったようであるが、内容は濃い。
どうしても神田さんといえば、簡単にすばやくビジネスで儲ける方法を教える人、
という印象をもった読者が多いためであろうか・・・
物語は88歳3ヶ月で生涯を終えるトウタさんが主人公で、物語はすすめられる。
トウタさんは長寿というだけでなく、かなり稀にみる破天荒な人生と、
その人脈と、つぎからつぎへと起こる出来事が、小説などとは一線を画する。
このリアリティーには「事実は小説より奇なり」という言葉さえ陳腐である。
トウタさんは戦前、戦中、戦後と激動の変化の時代を、持ち前のタフさで、乗り越えていく。
乗り越えるだけでなく、ときには大成功し、ときにはどん底の谷底に落とされる。
しかし、そのすべてのなかで一貫しているのは、
どんなときにも、くじけない、逃げない、そして最後の最後まで、
一日一日を丁寧に生きていく、その姿は圧巻ものだ。
あとがきで、神田さんが書いているように、
世間がぼんやりと考える幸せ。それは金銭的成功、贅沢な生活、自由な時間。
そんなものが、決して満足を保証するものではないことを痛感させられる。
「幸せ」とは、いかに生き、いかに死ぬか、という死生観があってはじめて得られる。
死をリアルに感じることができなければ、生もまたリアルに感じることができない。
不幸をきちんと生きなければ、幸福をきちんと生きることができない。
「幸せ」とは、そうした人生のパラドックスの中から、
自分自身が、自分の物語を引き出すこと。
このような、神田さんの持ち前の経営コンサルとしての経験、
かれの人生観もふんだんに盛り込まれて、とても密度の高い作品である。
わたし自身は、物心をついてから、おじいさんとは縁がなく、
老賢者の実体験を聞くことがなかった。
またこんな変化の激しい時代に、古い人の話を聞いたところで、
たいした役にも立たないと思っていたが、
いまさらながら「温故知新」の大切を認識させられたのであった。